2016/03/23

オイコノミア「“ズル”い事件の経済学」を見て。ズルをする人とそれを防ぐ人のせめぎあい。

2015年度を締めくくる言葉として、又吉さんが選んだのは、「ずる」です。大きな筆で、力づよく「ずる」と書く又吉さん。(画像は、公式サイトにて)

今年も、企業の不正会計問題、オリンピックのエンブレム問題、フォルクスワーゲンの排ガス規制問題、FIFAの贈収賄問題、横浜のマンションでの「くい打ち」データ偽装問題など、数多くのズルが明るみになりました。
ごく最近では、ショーンK氏の経歴偽装問題が大きな話題を呼びました。


経済学からみるとズルについて、どのようなことが分かるのでしょうか。
その一つは、誰でもズルをする可能性があるということです。

1. ズルされ続けた間寛平さんの「お人よし」エピソード

ここで登場したゲストは間寛平さん。又吉さんが、初めて好きになった芸人とのこと。

寛平さんは、何度もズルをされてしまったのでした。

「歩くはんこ屋」と呼ばれるくらい、すぐ保証人になってしまう。保証人になって背負った借金は6,000万円になったのです。

借金を返そうと考え付いたのが、「アメマバッジ」というバッジを作ることでした。
「アメマバッジ」とは何か―テレビ番組で自分が演じていた「アメママン」というキャラクターをかたどったバッジです。

しかし、その番組が打ち切られるなどして、売れるという見込みは大外れ。630円の仕入れ値で、定価1,500円で売ろうとしたということで、値段が高すぎたのでしょうか。

10万個も作ってもらう契約をしていたので、大量の在庫を抱えることになりました。バッジを作った業者から、製作代金の支払いを求められて、ついには裁判になったのです。そのあたりの詳しいいきさつは、日刊ゲンダイのこのサイトで

2. そもそも人はなぜズルをするのか

この問題について、経済学の考え方で答えを出そうとした人がいます。それが、アメリカの経済学者ゲーリー・ベッカーです。

彼は、「シンプルな合理的犯罪モデル」というものを考えました。それは、どのようなものか。

「ある会議があり、時間ぎりぎりだったので、駐車違反をしないと会議に遅刻してしまう」という状況があったとします。このとき、駐車違反(ズル)をすることで得られるメリットと、こうむる損害(コスト)を比べて、ズルをする価値があるかを計算しているという考え方です。

ズルをすることで得られる利益・・・例えば、会議に間に合うことで自分のメンツが保たれるということ
ズルにより受ける損失・・・駐車違反の罰金(運よく払わないで済むかもしれない)
この利益と損失を比べて、利益の方が大きくなる場合に、犯罪をしてしまうのだと考えます。

この考え方によれば、ズル(犯罪)を防ぐための方法はカンタンです。
駐車違反の場合を例にとると、違反することで受ける損失が利益よりも大きくなるようにすればよいのです。

例えば、
  • 警察官の数を増やす
  • 監視カメラを取り付ける
  • 罰金を高くする
といった方法が考えられます。

この、「シンプルな合理的犯罪モデル」に対して、反論したのが、ダン・アリエリーです。
彼は、行動経済学の面から、疑問を投げかけました。人が罪をおかすときに、そのように冷静に利益と損失を比べているのか疑わしいというのです。

彼は、ズルのメカニズムを解き明かすために、次のような1~4のステップで実験をしました。
  1. 数学の問題を20問、解いてもらう。
  2. 自己採点したうえで、解答用紙をシュレッダーにかける。
  3. 問題を解いた人が、何問解けたか自己申告をする。
  4. 一問正解するごとに1ドル支払う。
このような条件で出題した場合、被験者が自己申告した解答数は、平均7問でした。ほかの人に、条件をつけずに、ほうびもあげずに出題したときは、平均4問正解です。

この実験から、アリエリーは、「少数の悪人がたくさんズルをしたのではなく、多くの人が少しズルをしたのだ」と結論付けました。この実験について、このサイトを参照しました。

寛平さんも、似たような経験があるそうです。
大勢の人を集めて、レースに出てもらい、各自のタイムを自己申告させました。タイムの良い人には、豪華賞品を渡すことにしました。すると、商品を渡す段になって、上位者みんなが「嘘のタイムを申告していました」と告白したのです。

これらのことから、多くの人は、ばれないときでも少ししか嘘はつかないということが分かります。悲しいけど嬉しいともいえます。でも、少しの不正が積み重なると、問題が大きくなってしまうわけです。

3. ズルをふせぐ方法はあるのか

それでは、どのようにすれば、人のズルを防ぐことができるか、考えてみます。
例えば、一緒に暮らしていて、他人のシャンプーをこっそり使う人がいるとき、それを防ぐためにはどうすればいいでしょうか。

又吉さんと同居しているサルゴリラ・児玉さんの告発によれば、なんと、又吉さんが児玉さんのシャンプーをこっそり使っているらしいのです。

合理的犯罪モデルから考えると
  • 監視カメラ
  • シャンプーを部屋に持ち帰る
  • シャンプーを鍵のついた箱に入れる
こういった方法があげられます。でも、大げさだったり、実行するのが難しかったりします。

行動経済学から考えると、どうでしょうか。
行動経済学では、人の道徳心に訴える方法をとります。例えば、シャンプーに目玉のシールを貼って、ズルして使おうという気を無くさせます。こんなシールです。引用元


 









アメリカの実験では、モーゼの十戒を読ませてからテストを解かせると、カンニングが減るといった結果が出ています。

最初に「私は嘘を書きません」ということにサインさせてから、内容を書かせると、正直な申告を促すことができます。

4. おまけ

「ずる」ってあまり、いい響きではないですね。来年は、どういう言葉で締めくくりましょうか、と大竹先生に聞かれて、「うんばらばー」でと答える寛平さんなのでした。

2016/03/16

オイコノミア「人脈づくりは怖くない!」

春は、別れと出会いの季節。人脈を築くためにどうすればよいか、経済学の視点で考えてみます。

舞台は、千葉にある航空科学博物館で、ゲストに、春香クリスティーンさんを迎えてお送りします。

友だちの作り方が分からないという春香さん。又吉さんも、上京したてのころは、まったく友だちがいなかったと返します。

皆さんは人脈という言葉に、どういうイメージを持っていますか。
春香さんは、「人脈」って派手なイメージがあり、「人脈のある人は成功者」と考えています。そして人脈作りはカンタンなことではないと思っています。

そして、「飲み会を途中で抜けて、外に出て、会の終わりころにまたもどってくる」という根暗なエピソードで盛り上がる春香さんと又吉さん。二人とも同じ経験があるようです。私も共感しました。

1. 人脈を形にしてみる

人を○におきかえて、人と人とのつながりを線で表してみます。一人と一人の関係は、○―○のように表すことができます。
人脈が豊かな人からは、この線が、何本も伸びます。

ここで質問です。あなたが世界で一番会いたい人は誰でしょう。
この問いに、春香さんは「ドイツのメルケル首相」、又吉さんは「マラドーナ」と答えました。

それでは、自分から何人の人を仲介すれば、会いたい人に会うことができるでしょうか。

この問題についての研究によれば、平均6人を介せば、世界中どこの人とでもつながるとされています。

そのことを実証する実験は、数多くあり、なかでも有名なのが、イェール大学の心理学者スタンレー・ミルグラム教授によって1967年に行われた実験です。
 この実験ではネブラスカ州オマハの住人160人を無作為に選び、「同封した写真の人物はボストン在住の株式仲買人です。この顔と名前の人物をご存知でしたらその人の元へこの手紙をお送り下さい。この人を知らない場合は貴方の住所氏名を書き加えた上で、貴方の友人の中で知っていそうな人にこの手紙を送って下さい」という文面の手紙をそれぞれに送った。その結果42通 (26.25%) が実際に届き、42通が届くまでに経た人数の平均は5.83人であった。(wikipediaより)
この実験に対しては、世界がつながっているのではなく、アメリカ国内がつながっているだけじゃないかというツッコミがされました。

2002年に、ダンカン・ワッツらが行ったのは、eメールを使った実験です。この実験では、10万人近い被験者を募り、世界中の指定された目標にむかってメッセージを送るように指示を出したのです。その結果は、平均6人で到達するというものでした。(参考サイト)

そして、現在のSNS時代。Facebookがミラノ大学と共同で行った調査では、平均4.74人を介せば全ユーザーとつながることが判明したのです。(ニュースサイト調査結果原文)

このような、人間関係のつながりは、なんだか、飛行機の路線図のようにも見えてきます。











国内線で例えてみると、羽田空港のように数多くの空港と結ばれている空港がある一方、離島のように一つの空港としか結ばれていないところもあるのです。羽田空港のような、ネットワークの中心にある空港のことをハブ空港と呼びます。

人間関係にも、知り合いが多い人と少ない人がいるわけで。知り合いの多い人は、ハブの役割をしているといえます。そのようなハブの役割をしている人と知り合うだけでも、その先に人脈が広がる可能性があります。

又吉さんは、知り合いの後輩が多く、1対1で、しばしば顔を合わせることによって、つながりを築くように努力しているそうです。

2. 人のつながりで就活する・採用する

人間関係のつながりを、採用活動に生かしている企業もあります。
番組で紹介された会社は、ユニークな採用方法をとっていました。求人広告を出すのではなく、社員の知り合いを採用するという方法です。この方法のメリットは

  • 会社にとっては、採用するためのお金や時間が節約できる
  • 働く人にとっても、知れたメンバー・知れたスキルの持ち主といっしょに働くことができる
ということがあげられます。
このような採用方法を構築した会社として、番組ではリクルートが紹介されました。こういった採用システムは、リファラル採用サービスと呼ばれ、日本でも広がりつつあるようです。(参考サイト)

今いる社員と新入社員の間で、働き初めから良い関係があり、その状態で仕事ができるので、すぐれた方法であるといえます。

3. 「強いつながり」「弱いつながり」

人間関係の強さ(濃さ)に着目した考え方として、有名なものがあります。マーク・グラノヴェッター氏が唱えた、「弱いつながりの強み」という考え方です。

人間関係には、親子や親友といった強いつながりのほかに、たんなる知り合いといった弱いつながりがあります。グラノヴェッター氏は、有益な情報をえるためには、弱いつながりで結ばれている人を利用した方がよいと考えました。なぜなら、強いつながりを持つ人どうしは、同じ情報を共有することが多く、新しい情報を手に入れることが難しいからです。

参考サイト"ITmedia エンタープライズ","wikipedia"

この「弱いつながりの強み」という考え方は、現代のSNS時代にはとても適した発想です。「弱いつながりの強み」を実感をともなって知ることとなったのは、東日本大震災が大きいといえます。このとき、必要な物資やボランティアについての情報の多くが、SNSを通じてやり取りされたのです。

2016/03/09

高浜原発の再稼働が差し止められた日

各地で、原発の再稼働がはじまり、原発行政が動き始めたように見えました。
そんななかで、一石を投じる決定が出されたので、注目してみます。

この決定は、関西電力高浜3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを命じたものです。

決定の概要は、時事通信のこの記事に簡潔にまとまっていました。

決定の詳細は、ここ(脱原発弁護団全国連絡会)にあるので、参照します。

1. 立証責任について

裁判において、電力会社側が、どのような証明をすべきなのか。
この点について、大津地裁は、次のように述べました。
  • 新規制基準の制定過程における重要な議論
  • その議論を踏まえた改善点
  • 各原発の審査において問題となった点
  • その考慮結果
以上の点については、電力会社側が証明する責任を負います。今回は、その証明が不十分であると指摘しました。

2. 大災害に対する備えについて

福島の原発事故に見られるような、大災害に対して、どの程度の備えをすべきでしょうか。この点について、裁判所は、次のように述べました。

原子力発電が効率的だからといって甚大な災禍と引き換えにすべきではない。
電力会社側は、「新規制基準を守れば、福島の事故と同様の事態が生じることはない」と主張する。しかし、福島の事故原因の究明は不十分であり、そのような主張が正しいとはいえない。
福島と同様の事故を防ぐためには、原因究明を徹底的に行うことが不可欠である。
徹底的な原因究明がされない現状は、新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を感じる。
災害が起こるたびに「想定を超える」災害であったと繰り返されてきたことを考えれば、十二分の余裕を持った基準としなければならない。
そして、事故が生じた場合でも、致命的な状態に陥らないようにするために、新規制基準を策定すべきである。
現在の新規制基準が、そのような条件を満たしているかは疑問である。
また、裁判所は、個々の安全対策についても、疑問を述べています。
非常用電源を設けたとしているが、それで十分だろうか。十分であるという社会一般の合意が形成されたといってよいか疑問である。
使用済み燃料ピットの冷却設備に危険性がある。十分な安全対策がとられているか疑問である。


3. 耐震性能について

そして、地震による被害の想定についても、疑問を投げかけています。
地層を調査したとはいえ、断層が連動して動く可能性を否定できず、安全余裕をとったといえるものではない。
断層に基づく地震力を想定しているが、その想定方法が、地震力の最大限度をカバーしているとはいえない。

2016/03/02

認知症の高齢者の行動について家族はどんな責任を負うのか

この問題について、最高裁が判断をしました

事件のあらましは、次のとおりです。
認知症になったA(当時91歳)がJR東海の駅構内の線路に立ち入り、列車に衝突して死亡しました。この事故に関し、JR東海が、Aの妻とAの長男に対し、本件事故により列車に遅れが生ずるなどして損害をこうむったと主張して、損害賠償金およそ720万円の支払を求めていました。
この事件で、問題となっていた点は、認知症患者の行動について、家族がどこまで責任を負うか、ということです。

民法には、責任能力のない者の行動によって、第三者に損害が生じた場合、その監督義務者が責任を負う、と定められています。

この既定の典型的な例は、「未成年の子どもが他人に損害を与えたとき、その保護者が賠償責任を負う」というものです。未成年の子どもの保護者は、法律上、当然、監督義務があるといえます。

しかし、今回の事件では、問題となっているのは、「未成年の子ども」ではなく、「成人の認知症患者(精神障害者)」です。
最高裁の判断では、「成人の認知症患者(精神障害者)」の同居の配偶者や、子どもは、法律上当然に監督義務を負うものではないとされました。

ただし、生活の状況によっては、監督義務者に準ずる立場のものとして、監督義務を負うことになります。

監督義務があるか、無いか、その判断基準はどこにあるのでしょうか。最高裁は、次のように述べました。

  1.  精神障害者自身の生活状況や心身の状況
  2.  精神障害者との親族関係の有無・濃淡
  3.  同居の有無その他の日常的な接触の程度
  4.  財産管理への関与の状況などの関わりの実情
  5.  精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容
  6.  5.に対応して行われている監護や介護の実態

以上のような事情を考慮して、「精神障害者の行動について、責任を問うのが妥当といえる状況か」という視点から判断すべきであるというのです。

今回の事件では、
  • Aの妻は、85歳であり、自分自身も要介護認定を受けていた
  • Aの長男は、1ヶ月に3回ほどA宅をおとずれるだけであった
という事情があるので、妻も長男も、監督義務を負うことにはならない、とされたのです。


認知症の親と同居するということは、その行動に責任を負うことにつながるわけです。安易な介護体制でできることではありません。
この判決は、そのことを改めて強調する結果になったのです。